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明に至る光子論の確立がそれぞれ注目される。これらの理論は互いに無関係に進歩したが、興味深いのは半導体の発明による3つの分野の統合である。図3−2にその関連を示した。半導体発明の意義は、電子および光子の発見が真空中での出来事であったのに対し、より興味深い性質が固体中の中で起きるという発見を加速したことにある。これによって真空管がトランジスタに置き換えられたばかりでなく、情報・マルチメディア革新に通じる光と電子を自由に操る固体物性論が発展することとなった。
マイクロイノベーションの出現を理解する上で忘れてはならないのが、システム科学の発展である。システム科学は、コンピューターの発展とともに進歩した新しい科学である。チューリングが人間の計算能力を数学的に分析した結果考え出したチューリングマシンと呼ばれる計算機械、生物学者として知られるベルタランフィーによって提案された一般システム理論。これらの研究を基にして生まれたサイバネティクス、自動制御理論として発展したオートマトン理論などがそれである。システム論の思想は、古くは魔術的儀式にまで遡ることができると言われており、現代科学では、生命の有機体論にその原形を持つ。デジタル計算機の生みの親として知られるフォン・ノイマンによれば、生命作用のもつ論理性およびその数学的モデルがシステム科学の対象である。フォン・ノイマンがオートマトン理論構築の過程で、DNAの発見以前にその存在を予測したことはよく知られている。コンピューター科学が生命科学の進歩に大きく左右される姿は、その歴史そのものであったのである。
このように、エレクトロニクス革新の構造を調べていくと、電子および光量子を操作する技術が固体素子として実現された。それがコンピュータというより生命あるいは人間に近いシステムとして工学的に統合されて、新しい社会ニーズを生み出したという姿が浮き上がってくる。冒頭に述べたテスラの偉大な発明の一つに交流による電気の発電および送電技術がある。この技術によって電気エネルギーは、大規模な集中発電と、蓄積が困難で送電ロスの大きい配電方式を運命づけられたことになる。一方、生体のエネルギー生産は、明らかに分散化している。また、ほとんどのエネルギーは太陽エネルギーという自然エネルギーによってまかなわれており、エネルギーの輸送は物質によって行われている。ニコラ・テスラの世界システム構想におけるエネルギー供給方式は、生体のエネルギーシステムとの類似性は乏しいと言わざるを得ない。すなわち、エネルギー技術は、生体に近い技術システムを実現するという、現代の技術革新の洗礼をいまだ受けているとは言えないのである。

 

 

 

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